事業性評価とリアルオプション③ 基準の最適化(撤退・増資オプション)

リアルオプションは手の出しずらい手法に思えるかもしれませんが、Excelとシミュレーションを利用することで簡単に評価に組み入れることが可能です。前記事で取り上げた撤退・増資オプションの判断基準を最適化することで、より実践的な利用に踏み込みます。

  1. 事業性評価とは?
  2. 事業性評価とリアル・オプション③ 基準の最適化(撤退・増資オプション)

前回、前々回の記事は以下となります。通常のDCFから、モンテカルロDCFによる事業性評価、そして撤退オプションと拡張オプションを組み入れる方法と評価結果について扱いました。本記事ではその続きとして、各オプションの判断基準についてどのように検討すべきか、数理最適の手法を用いた方法を取り上げます。

事業性評価とリアル・オプション① 撤退オプション

リアルオプションとは何か? 少し古い書籍ですが、ジョナサン・マン『実践リアルオプションのすべて ―戦略的投資価値を分析する技術とツール』ダイヤモンド社 2003年6月 …

事業性評価とリアル・オプション② 撤退オプションと増資オプション

前回:DCFに撤退オプションを組み入れる 前回の記事は以下となります。通常のDCFから、モンテカルロDCFによる事業性評価、そして撤退オプションを組み入れる方法と評価結…

なお、本検討ではリアルオプションを組み入れた事業性評価を実施するに際してリスク分析ツール Crystal Ball を活用しております。

増資・撤退基準の最適化:Crystal Ball を活用した検討方法

前々回の記事では、撤退オプションを実施する際の基準が厳しかったことにより、黒字になる確率が、オプションを考慮しない場合よりも下がってしまいました。増資オプションについても、もっとNPVを高くする基準がないとは言い切れません。

ここでは、Crystal Ball に搭載されている数理最適化ツール OptQuestを使用し、基準の最適化を考えます。OptQuestを活用することで、不確実性下における数理最適化をExcel上で簡単に実施することができます。リアルオプションはそもそも不確実性のある中で事業戦略を考えるための手法であり、マッチしているツールと言えます。

今回最適化したいのは、増資・撤退の両方の基準となります。基準の探索範囲は0から300の間として、最もNPVが高くなる基準を探します。(Crystal Ball の操作方法は割愛しますが、非常に簡単です。下準備は最初にセルC15、C16にそれぞれ「意思決定変数」という設定をするだけとなります。)

設定が完了したら、OptQuestを起動し、目的関数とオプションを以下のように設定して実行します。今回の目的関数は「NPVの平均値の最大化」とし、加えて要件を「NPVの最小値が必ず-250を上回るようにする」としました。

数理最適化ツールOptQuestを実行して、最適な撤退基準・増資基準が判明しました。
増資基準:38.1 億円
撤退基準:22.9 億円

今度はこの基準を利用して、増資・撤退オプションを考慮したDCF法による事業性評価を実施すると、以下のような結果となりました。


平均値: 約276.7億円
本事業の黒字になる確率: 72.48%
標準偏差: 約376.8億円

ありがたいことに、平均値や黒字化の確率は上昇しました。このように、リアルオプションを考える際には、どういった基準をもって、どのような行動を起こすのか、基準とシナリオが大切となります。現実的な意思決定を考慮するためには重要な要素といえます。

リアルオプションとシナリオ分析との違い

通常の事業性評価では撤退や追加投資についてシナリオを立てることで分析するケースがあるかもしれません。そこに、様々なケースを網羅して、より定量的に何が起こるのかを可視化してあげるのがモンテカルロDCF法を用いたリアルオプション分析でした。

例えば、「赤字続きの事業を永続的に実施している」「好調な場合の追加投資を行っていない」などを検討したい場合、成長率やコスト変動などの不確実性も考慮した上で、各々のシナリオでどの程度のNPVのばらつきになるかを定量的に把握することができます。

イメージですが、シナリオ分析は「点」で評価していくのに対して、モンテカルロDCFでは「面」を、リアルオプションは「動き」を評価します。分析は評価者の主観に大きく依存することに変わりはありませんが、面や動きも含めて検討することで、分析は深くなり、第3者の意見も入りやすくなります。特に、大きな投資などでは周囲とのネゴシエーションやコストオーバーの回避が重要になることが多く、そうした場合には、より客観性が高く評価できる後者の方法が取られます。

リアルオプションの活用方法

手の出しずらい手法に思えるかもしれませんが、リアルオプションは不確実性を考慮しつつ外部環境に対応できる計画を立てることができる、事業を有利に進めるための素晴らしい手法と言えます(実際に少し手間はかかります)。それを実現する方法としてCrystal Ball は便利なツールと言えます。

実際の意思決定フェーズで今回ご紹介した手法を実施される場合は、基準決め、シナリオの検討を通じて、ステークホルダーとの共通認識を作成していくことが重要です。Crystal Ball のアウトプットイメージを活用すれば、社内説明やプロジェクト関係者内でコンセンサスをとるなどの業務円滑化の効果も期待できます。

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