事業性評価とリアルオプション② 撤退オプションと増資オプション
リアルオプションは手の出しずらい手法に思えるかもしれませんが、Excelとシミュレーションを利用することで簡単に評価に組み入れることが可能です。前記事で取り上げた撤退オプションに加えて、増資オプションを組み入れて評価を行います。
前回:DCFに撤退オプションを組み入れる
前回の記事は以下となります。通常のDCFから、モンテカルロDCFによる事業性評価、そして撤退オプションを組み入れる方法と評価結果について扱いました。本記事ではその続きとして、増資オプションを取り上げます。
前回検討した通常のDCFや、モンテカルロDCFによる結果では検討が不十分と言える点がありました。
1.赤字続きの事業を永続的に実施している
2.好調な場合の追加投資を行っていない
この内、1については前回「撤退オプション」として評価に組み入れました。今回は2の事業が好調な場合についても評価に組み入れたいと思います。なお、本検討ではリアルオプションを組み入れた事業性評価を実施するに際してリスク分析ツール Crystal Ball を活用しております。
増資オプションをDCFに組み入れて事業性評価
増資オプションの検討方法
撤退だけでなく増資(拡張)するオプションも追加してみましょう。
増資オプションを組み込むときは、撤退オプションと比べて想定が煩雑になります。なぜならば、撤退オプションでは撤退を売上が0になることで示しましたが、増資オプションにおいては、増資基準だけでなく増資額(投資額)も想定として盛り込む必要があるためです。また、増資したときに成長率がプラスされることも考慮に入れて評価します。
今回は以下の基準で増資する(=増資でタイミングで投資を行い、以降の成長率を追加する)条件を付けて、シミュレーションを実行しました。
※モンテカルロ・シミュレーションを活用した事業性評価についてはこちらの記事をご覧ください。
- 2026年の売り上げが90億円に達した場合は以下の要領で増資する
- 2027年に150億円の追加投資をする(2027年のキャッシュフローを計算する数式に「-IF($E$8>$C$16,C17,0)」を追加)
- 2027年以降の固定費は2029年まで毎年35億円かかる(固定費を「=20-10*IF($E$6<$C$15,1,0)+15*IF($E$6>$C$16,1,0)」に変更)
- 2027年以降の追加成長率は三角分布で表現する
- 2027年の追加成長率: 最小0%、最尤50%、最大100%
- 2028年の追加成長率: 最小0%、最尤20%、最大50%
- 2029年の追加成長率: 最小0%、最尤10%、最大20%
増資オプション+撤退オプションの事業性評価の結果
シミュレーションを実行すると以下のようになりました。
- 平均値: 約167.3億円
- 本事業の黒字になる確率: 64.68%(図の中央下、信頼度)
- 標準偏差: 約402.2億円
増資オプションをつけると、上図において、山の右側の裾(すそ)が長くなりました。これは、増資したことにより成長率の値の範囲が広がり、それに応じてキャッシュフローの取りうる幅が変わってくるためです。単純に言えば、より儲かる可能性が増えました。
撤退オプションだけを付けた場合の平均値は102億円で、黒字になる確率は64.73%となっていました。拡張オプションを付けることで、黒字になる確率はほぼ変わらないものの、平均値は約60億円上がったようです。
前回から1つ宿題が残っています。オプションを付けた際の基準額を適当に決めていますが、これで良いでしょうか。撤退オプションを付けた際には、基準が厳しかったことにより黒字になる確率が当初より下がってしまいました。また、今回検討した拡張オプションについても、もっとNPVや黒字化する確率を高くする基準がないとは言い切れません。そこで次の記事では、基準の最適化について検討したいと思います。
リアルオプションの有効性と活用方法
リアルオプションは手の出しずらい手法に思えるかもしれませんが、Crystal Ball を利用することで簡単に評価に組み入れることが可能です。この評価方法ですべてを決めるということは無いかと思いますが、周囲の合意形成を取りつつ事業や投資を推進する際には極めて効果的です。Crystal Ball のアウトプットイメージを活用すれば、社内説明やプロジェクト関係者内でコンセンサスをとるなどの業務円滑化の効果も期待できます。
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