ExcelでモンテカルロDCF:事業性評価とリスク分析

企業や事業の価値を評価するためにディスカウント・キャッシュフロー法がよく用いられます。これにモンテカルロ・シミュレーションの考え方と組み合わせて、より使いやすくした方法がモンテカルロDCF法となります。具体例を挙げて解説します。

  1. 事業性評価とは?
  2. ExcelでモンテカルロDCF:事業性評価とリスク分析

事業計画を策定する際の不確実な要因としては、自然災害、政治経済などビジネスの外側にあるリスクと、 過小見積、事業評価のズレ・見誤りなどビジネスに内在するリスクが存在します。不確実なものを確率として捉えることで、事業計画策定や事業性評価の際に、過小・過大な見積を避けて、より実態に迫ることが可能です。

事業のリスクを扱うためによく使われる手法がモンテカルロ・シミュレーションとなります。これにより、確率を用いて事業計画を評価することで、 ビジネスに内在するリスクを未然に防ぐことが可能となります。今回はExcelをベースにした事業性評価と題し、 Excelのアドインであるリスク分析ツール Crystal Ballを用いて、 不確実な要因を考慮した事業計画モデルと分析結果をご紹介します。

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まずはExcelでDCFを実施

具体的かつシンプルな事例を用いて解説します。

投資金額が200億円で期間が2024年から2029年までの6年間にわたる事業計画として、 DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー)によりNPV(正味現在価値)を計算します。 収入については初年度の売上を10億円とし、初年度からの毎年の成長率を

  • 2024年: 200%
  • 2025年: 100%
  • 2026年: 50%
  • 2027年: 20%
  • 2028年: 10%

と設定し、各年度における売上を計算します。
次に支出について、

  • 毎年の固定費:20億円
  • 毎年の変動費:売上の50%

と設定し、毎年の割引率を10%と設定すると、DCF法によりNPVは91億円と算出されます。(下図参照)

モンテカルロDCFの下準備、ExcelシートでNPVを計算

しかし、上記のように自分で設定した初年度売上、毎年の成長率、毎年の売上対する変動費率は、本当にその値で良いのでしょうか?

もう少し詳しい分析を行うのであれば、それぞれの値を変化させたときのNPVの変化を調べる必要があります。 つまり、様々な値を入力することで「この値を入力すると、このような結果になる」という分析をしなければなりません。

この時、良いケース・通常のケース・悪いケースなどを想定するのはシナリオ分析(3点法)と呼ばれます。また、特定のケースを想定して分析するWhat-if分析と呼ばれる方法もあります。ところが、こうした分析は「評価が主観的になる」「いくつものケースを試すのは手間がかかる」などの欠点が生じます。

ExcelアドインのCrystal BallでモンテカルロDCFを実施

そこで、モンテカルロ・シミュレーションの考え方を用いて「セルの値に幅を設定する」ことを考えます。 実際に幅を設定する際は、上記で触れたリスク分析ツール Crystal Ballの力を借ります。

不確実な要因と考えられる初年度売上、毎年の成長率、毎年の売上対する変動比率に対し、経験的、もしくは過去データから確率分布を定義します。 ここでいう「確率分布」とは売上や成長率に対応した「いびつなサイコロ」のようにイメージしてください。

本検討ではユーザーが変動幅の上限値と下限値及び最尤値を設定した三角分布として定義し、試行回数10,000回のモンテカルロ・シミュレーションを実施します。

以下は設定の一例です。設定は数クリックと、数値を入力するだけとなり、非常に簡単です。

売上に確率分布(三角分布)を設定

NPVを1点ではなく範囲で確認

シミュレーションの結果はヒストグラムや統計量として視覚的に表示されます。 本検討では以下のような結果が得られました。これは91億円と単一の値で計算した場合や、3点法で分析した場合に比べて、はるかに詳細な分析結果と言えます。

Excelだけで計算した際には91億円でしたが、様々な上振れ下振れ要因を考慮に入れたところ、平均は148億円と50億円弱の過小評価だったようです。一方で、結果のばらつきが大きく30%近い確率でNPVは0を割ってしまいます。

  • 平均値: 約148億円
  • 本事業の黒字になる確率: 70.25%
  • 標準偏差: 約235億円
  • 最大値:約1309億円(グラフでは表示していません)
  • 最小値:約-319億円
Crystal Ball で算出したモンテカルロDCFによるNPVのばらつき

感度分析の実施:NPVに対する各要素の影響

結果に対する感度分析を実施することでNPVに最も影響のあるパラメータは2024年度売上であることがわかり、 どのパラメータを重点的に再検討するかなどモデル見直しにも役立てることができます。この場合では売上予測を分解するか、事業部別・プロダクト別に分けることで、どこに不確実性が高いのか分かると思います。

Crystal Ball で算出したモンテカルロDCFによるNPVのばらつきに対しの感度分析結果

あるいは、売上を飛ばして2026年の成長率の想定がどうなっていたのか、変動費率は押しなべてリスクが低いことなどが判明しました。このように不確実な要因に確率分布を定義してモンテカルロ・シミュレーションを実施することで、 より分析者の想定を反映し、不確実性を考慮した検討が可能となります。

モンテカルロDCF法の活用シーン

事業計画策定時に不確実な要因を見過ごしたままにすると、計画の未達成やコストオーバーの発生確率が高まります。 リスク分析ソフト Crystal Ball を利用することで、 Excel上の様々なモデルに不確実な要因を埋め込み分析を行うことで、 NPVやIRR、キャッシュフローをはじめとする事業評価指標を定量的かつ確率的に評価することができます。

投資額が大きく不確実性の高いとされる業界での事業性評価や、事業・投融資のリスク分析が欠かせないようなシーンで、特に活用されます。また、モンテカルロDCFは、事業性に影響する各要素が、どの程度NPVに反映されるのかをより直接的に計算する方法とも言えます。そのため、新規事業を周囲の合意形成を取りつつ推進する際や、同じく設備投資を検討する際などにも極めて効果的です。Crystal Ball のアウトプットイメージを活用すれば、社内説明やプロジェクト関係者内でコンセンサスをとるなどの業務円滑化の効果も期待できます。

以下のフォームより、本記事で取り上げた事例や、ほかにも様々な業界における定量的な事業リスク分析事例、ビジネスへの応用事例について資料をお配りしております。また、Crystal Ball は15日間の無料体験を活用すれば、シミュレーションを動かしてご自身のケースで収支を確認していただけます。さまざまな条件や、事業自体の想定を変えることも可能です。ぜひお試しください。

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