為替をExcelベースのモンテカルロ・シミュレーションで分析

為替などのランダムウォークすると言われる現象はモンテカルロ・シミュレーションという確率的手法を用いて分析・予測されることが多く、Crystal Ball が活用されます。分析例を挙げてご紹介いたします。

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為替のシミュレーションと聞くと、こんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

  • 為替なんて予測するものではない
  • アナリストなどの予想がいくらでも出ているのでは
  • 少なくとも個別に実施する意味はないだろう

しかし、現に為替の分析を手元で実施しているケースが多く存在します。例えば以下のようなシーンでご利用いただいております。

  • メーカー様において原材料や製品を輸出入する
  • 財務経理、経営企画などで全社としての為替リスク分析に携わる
  • 投資先の為替エクスポージャーを知る必要がある
  • 電力・ガスなどのインフラ企業で燃料などを調達する

ランダムウォークという考え方によれば、時間を経るごとに移り行く為替や株価は、理論的な予測は全くできないか、非常に難しいとも言われております。しかし、ビジネスにおいては、理論的な説明を持たせるのが難しくとも、為替の動きについて検討しなければならないシーンがあるようです。例えば、ドル円に基づいて輸出入の量を規制/緩和するルールを設けていたり、為替のエクスポージャーを確認したと、さまざまな状況を伺っております。

シミュレーション自体はさほど難しくありませんが(後段で解説)、最も難しいのは「どのように説明性を持たせるのか?」という点になります。

今回、Excelベースで確率的な分析を実施できるCrystal Ball というExcelアドインを利用して、実際に簡単な予測を行っています。

ここで登場するのが、過去のデータを使って説明するというアイディアです。

将来の為替の動きは、過去の為替の動きをおよそ踏襲するだろう、という意味です。こうした考え方で説明性を持たせることがあります。

では、過去のデータをどのように活用すればよいでしょうか。単純に為替のデータを並べて、最大値や最小値、平均値や標準偏差を見るということも考えられますが、本記事では、為替のシミュレーションに古くから使われている手法の1つであるランダムウォーク・確率過程という考え方を利用します。

また、検討にはExcelベースで確率的な分析ができるCrystal Ball というツールを利用しています。(手間がかかりますがCrystal Ball なしでも簡単な分析は可能です。)

ちなみにですが、もし為替がある水準を割ったらこうしよう、など、時系列での変化と施策の対応を検討したいケースがあります。例えば、ドル円が160円を超えたら輸入をストップしようなど、シナリオ分析や契約・オプションの価値評価が代表例です。そうした際に、Crystal Ball を利用した分析はとても便利です。為替の動きに加えて、シナリオ分岐や契約内容をIF文などのExcelとして並べていくだけで、任意の計算が可能になるためです。

サンプルファイルをご用意しましたので、実際に見ていきましょう。

分析の概要と手順

はじめに結果について触れますが、「過去約20年間の為替のばらつきを元にしたところ、来月末時点でドル円が160円以下に納まる確率は〇%」などの分析が手軽に実施できるようになります。

今回は以下の手順で分析をしました。

①過去為替データを引用する(investing.comより)
  ・1993年1月から2023年9月までの月次データを活用
②過去データから為替の平均値と標準偏差を算出
③幾何ブラウン運動を想定して為替の算出式を入力
  ・②で算出した値を活用
④Crystal Ball でのシミュレーション

①過去為替データを引用する

まずは過去データを準備します。こちらの Investing.com( https://jp.investing.com/)様が提供している外国為替より、ドル円のデータを1993年2月から月次でダウンロードします。今回は終値の変化率を利用します。LOG()関数を利用して、対数を取り、前月との差分を変化率として活用します。

②過去データから為替の平均値と標準偏差を算出

①の変化率について、平均と標準偏差を求めます。以下のようになりました。

③幾何ブラウン運動を想定して為替の算出式を入力

予測用のセルを設けます。ランダムウォークを再現する式を導入して為替の予測を行います。ここで、J20は②の平均値を、J21は②の標準偏差を示します。

③の解説

③については幾何ブラウン運動というものに為替が従うと仮定しております。(突然数式が出てきますが、読み飛ばしていただいて問題ありません。)


  • S(t):t期の為替
  • μ:平均
  • ε:確率分布(ここでは標準正規分布)
  • σ:標準偏差

※Excelで扱いやすいように式を変形しております

④Crystal Ball でのシミュレーション

Crystal Ball というツールを使って確率を設定します。ここでは標準正規分布というものを利用します。③で設定したD10-21がこれにあたります。

ランダムウォークは、その名の通り毎月ランダムに為替が変わっていくことを示します。

ここではランダムに為替が変わっていく様子をたくさんのケース(ここでは1万回)繰り返し観察することによって、為替がどこに落ち着くのかを確率的に分析しています。これをモンテカルロシミュレーションと呼びます。分析の結果、2023年9月時点での予測としては、160円に収まる可能性が95%近い(下のグラフ中央下、信頼度)と分かります。

また、月を追ってばらつき、ボラティリティが大きくなっていく様子が以下となります。

相関機能などを利用すれば詳細検討が可能

上記の結果は実感とは異なる数値だったかもしれません。2024年現在、ニュースを見れば毎日のように円安の話題が聞けます。当たる・当たらないという問題も勿論ありますが、今日のようなシーンにこそ、今起きている状況がいかにレアケースだったのか、想定外だったのかなど、説明性を持たせることも求められます。

今回、Excelベースで簡単な為替のシミュレーションが実施できるということをサンプルファイルを通して確認しました。Crystal Ball を活用した為替シミュレーションは、為替に関連した資産価格の上下、収益への影響、他のマクロ指標との相関を考慮しての影響確認など、目的に応じてさまざまに活用されております。また、ランダムウォークは為替に限らず、株価や油価、物理演算など、さまざまなシーンに登場します。これらを容易に取り扱うことができ、Excelで簡単にレポートまで仕上げられるのはCrystal Ballの強みかと思います。

期間分割幅はどうするか、条件式の設定方法は、他の分布は使えないか、過去データをどのように活用するか、他のマクロ指標などとの相関を設定したい、…もしご興味があるようでしたら、お気軽にご相談ください。弊社でご支援した実績からお手伝いできる部分があるかもしれません。

以下のフォームより、今回利用したCrystal Ball について、ご紹介資料をお配りしております。また、Crystal Ball は15日間の無料体験を活用すれば、お手元でお試しいただくことも可能です。ぜひお試しください。

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