ご活用事例:Crystal Ball を利用した事業プロジェクション研修の実施
丸紅株式会社 様
「構造計画研究所と共同開発したCrystal Ball研修は事業プロジェクション研修として即日満席になるような人気プログラムとして受け入れられています」
丸紅株式会社では、新規投資案件のリスク分析ツールにCrystal Ballを採用している。各事業部が自由に利用できる環境を整えるだけでなく、事業プロジェクションをどう作り・どう分析するかに重きを置き、構造計画研究所と研修プログラムを共同開発した。
丸紅株式会社およびリスクマネジメント部の紹介
ー丸紅株式会社について教えてください
丸紅株式会社(以下丸紅)は創業から156年を迎える総合商社です。国内外で様々な商品を取引する他、事業投資や資源開発などの事業活動を多角的に展開しております。
国内10事業所、海外65カ国120事業所(含む現地法人)に4000名を超える従業員が働き、連結売上高は10兆5000億円(2013年3月期)です。
ーリスクマネジメント部の仕事について教えてください
リスクマネジメント部の業務は多岐に渡り、日々の取引の与信リスク・投資案件に関わるリスク・カントリーリスク・全社レベルの統合リスク・内部統制等々、扱うリスクの内容によって東京本社では8つの課、1つの傘下事業会社に分かれています。他にも国内外の拠点や営業部門への社内出向などの形で現場でのリスク管理も行っています。
Crystal Ballを使った新規投資案件のリスク分析については、事業投資案件に関わるリスクを所管する課(RM第四課)を中心としたチームが主として対応しています。新規投資案件の検討時において、事業内容や規模の観点から、リスクマネジメント部の専門チームも関与して詳細な分析をしたほうがよいと思われる案件については当該プロジェクトを推進する営業部と一緒に事業計画を狂わせるリスクファクターの分析を行い、経営陣に対してのレポートも行っています。
リスクの所在は千差万別であり、ケースごとにリスクの置き方も違います。「どのリスクファクターをどのように置くべきか」「深掘りすべきはどこか」などを議論しながら分析を行っており、商品知識や業界の動向に精通した営業部門に、専門チームのリスクマネジメント部が関わることで、ベテラン営業担当者が肌で感じている現場のリスク感覚を、経営陣に対して極力可視化し、わかりやすい形でレポートすることを心がけています。またリスクマネジメント部の分析を通して、営業部では意識されていなかった事業の特質や背景、事業計画そのものの間違いやリスクファクター間の隠れた関係などが、明らかになります。
ただし、そうやって営業部と一緒につくり上げたリスク分析レポートが、社内稟議を通すという意味で、営業部の意向に沿うものには必ずしもなっていません。勿論、経営陣がリスクに保守的になっているときに「このリスクについては限定的です」とレポートする時もありますが、詳細を知った上でリスクマネジメント部だけが反対したケースも少なからずあります。
当社の経営層は多様なバックグラウンドを持っていますので、必ずしも全員が稟議の俎上に載ったビジネスについて詳しいとは限りません。ビジネスモデルが複雑になればなるほど、営業担当者にとっては当たり前の商慣行であっても、経営陣に言葉で説明することは難しくなってきます。そのような場合にはリスクマネジメント部が間に入り、データやリスクについて客観的な説明を加えることが必要になってきます。
リスク分析とCrystal Ball
リスクとは、損失や被害などの望ましくない出来事が起こる可能性のことです。例えば、ある月の売り上げが増加するという変化は望ましいと言えますが、在庫が減り、その結果発注の遅れが生じるという望ましくない結果を引き起こすかもしれません。リスク分析はモデル化によって「どこにリスクがあるのか?」「そのリスクにはどのような意味があるのか?」を顕在化します。
リスク分析ツール Crystal Ballではあらゆる場面でのリスクをモンテカルロシュミレーションを用いて分析します。分析結果を視覚的に表現することで「どのくらいの確率でどんなことが起こるのか?」という疑問に答えます。
Crystal Ball導入のきっかけ~最初はアジア危機後の投資資産評価のためだった
ーCrystal Ballの活用についておたずねしたいのですが、まずCrystal Ballを導入したきっかけについて教えてください
実は、Crystal Ballが現在のように定着するまでには二段階の導入期を経ています。
最初の導入は2000年頃でした。当時、アジア通貨危機の直後で、総合商社はどこも東南アジアに大きなアセットを抱えており、巨額の損失を被りました。 当社も深刻な状況に置かれ、株価が50円台にまで下がるような状態で、さまざまなリストラ策を講じました。
リストラを行うにあたっては、まず最初に、納得性が高く、網羅性のある評価尺度を用意することが重要です。特に当社の場合はビジネスが極めて多種多様に亘りますので、どのアセットがどういうリスクを抱えていて、それに見合う利益がいくらなのかということをわかり易く評価して、納得性のある方針を打ち出すというのは容易ではありません。
当社では当時Value at Risk(VaR)という指標で連結ベースでの資産価値の変動リスクを表現できる大規模なシミュレーターを導入したのですが、そのシミュレーターに投入するリスクパラメータの評価ツールとしてCrystal Ballを20本導入したというのが第一段階です。
ただ、この時はCrystal Ballの利用はリスクマネジメント部の一部で利用するにとどまっていたので、全社に根付かせるまでには至りませんでした。リスクマネジメント部としてはCrystal Ballの価値は評価していたのですが、無理に全社導入することで営業の前線に過度な負荷を掛けることは避けたいとの考えもありました。
Crystal Ballをもう一度見直そうという機運が出てきたのは2007年頃でした。VaRによるマクロレベルのリスク管理がかなり定着して、リストラクチャリングも完了し、当社の保有するリスクも国内外の取引先への与信から、海外での事業投資に移り、投資の歩留まり向上が経営の大きなテーマになってきていました。
事業計画の策定とリスク分析のプロセスの中でCrystal Ballの活用を進めることにより、投資の歩留まりを全社的に上げていこうということで、リスクマネジメント部内に全社導入のためのプロジェクト専任者を置きました。この時点では第一次導入時の主力メンバーが海外赴任中だったこともあり、全社での定着を担った第二次導入メンバーはずいぶんと苦労した様です。
第一次導入時にはリスクマネジメント部員にCrystal Ballの配布を行いましたが、第二次導入時は各営業部で投資案件を担当する人たちを対象にまず100本程を配布しました。
その頃はシミュレーションがどういうものかという基本知識は既に社内に広まっていて、シミュレーション自体が当たり前のものになってきていました。事業計画を作る人たちもミドルクラスともなれば、きちんとした事業プロジェクションを自分で書けますし、なにがリスクファクターかも理解しています。Crystal Ballのインターフェイスは非常にわかりやすいので、ツールとしては受け入れられやすいものでした。
Crystal Ballのよさ~わかりやすいインターフェイスと速さ
ー 第一次導入に引き続いての選択ですが、Crystal Ballはどこがよいのでしょうか
まず、インターフェイスが使いやすくていいですね。Excelといういつも立ち上げているソフトにアドインで使える点も手軽です。そして、バージョンアップでぐっと早くなった計算速度も評価しています。
ただし、いくら使いやすいと言ってもCrystal Ballはあくまでツールであり、野球で言えばバット。打者の打撃力を最大限に引き出せる機能を持つバットです。そこで、打撃力にあたる事業プロジェクションの構築力を向上させるために、構造計画研究所と一緒に研修プログラムをつくることになりました。
告知即日ソールドアウトのCrystal Ball研修プログラム
ーどのような研修プログラムですか
共同開発した研修プログラムは2つあります。
1つは作成した事業プロジェクションをCrystal Ballを使って様々な仮定をおいてシミュレーションを行う方法を学ぶ研修で、2009年から行っています。
もう1つは、昨年開発した新しいプログラムで、事業計画のベースとなる需要予測を行うための、重回帰分析や時系列分析といった統計的手法を学ぶコースです。こちらは当社での実際の買収案件(海外の自動車ディーラー)をベースにしています。
ほぼ月1回のペースで2つのプログラムを交互に開催していますが、非常に人気があり、毎回アナウンス後24時間以内に席が埋まってしまいます。そのため、20名の定員を30名に増やして開催しており、この点では構造計画研究所には無理をお願いしています。
リスク分析には事業プロジェクションをきちんと書けることが前提ですが、営業担当者は必ずしも統計解析、財務分析などのスキルがある訳では無いので、その入り口の部分をCrystal Ballの研修で行っている形です。統計の知識を体系的に勉強する機会は社内には少ないので、この研修がよい機会となっているのかもしれません。
この様に言うと投資の定量的なファクターばかりを重視しているように思われそうですが、実際に研修で学んで欲しいと思っているのは単なるデータの扱い方というよりは、その背後にある考え方です。そもそもビジネスには過去データがあるものと無いものがありますが、過去データがあるビジネスとは、既に誰かがやっているビジネスということですから、必ずコンペティターがいます。でも本当は競合先のないビジネスをやる方が利益は取れるわけです。
誰もやっていない新しいリスクをとったビジネスをやっていくためには、最前線の営業担当者が持つ暗黙知の部分を少しでもクリアな形で共有した上で、「その事業にはどういうリスクファクターがあって、その重要度はどの程度なのか」「データが入手できるものはどのように推計を行うのか」「データのないものは無いなりにどのような仮定を置き、どの様な形で思考過程をシェアするのか」といったことが社内の共通語で理解できる状況になるのが望ましいと思っています。
ーシミュレーションを行う事業モデルはどういう要件で選定するのでしょうか
設定するファクターに関する予測がある程度難しいものを選定しています。 今回は自動車ディーラーを選びましたが、自動車はモデルチェンジなどの扱いにくい要素があり、メーカーの新規モデル投入などで前提が変わる反面、需要予測を間違うとどうにもならないようなタイプの投資です。
ー自動車は難しい投資なのですか
資源などと比べてデータ解析はやりにくいですね。ただし、教材としては自動車のように身近なものの方が興味を持ちやすいという面もあり、グループワークでも盛り上がります。
いくら漠然とケーススタディで勉強しても継続的に手を動かさなければ身につきません。自分のビジネスにどういう形で適用できそうかイメージが持てて、ある程度解っている人の傍で試行錯誤してみることが大事です。当社の社員の場合であれば、M&Aを何件も手がけていくことが普通なので、まずは実際の担当案件でリスクマネジメント部と共にリスク分析を行った営業部員に、案件が一区切り付いてから研修に出席して貰って、もう1回最初から追ってみて体系的に理解しなおすというやり方がノウハウを定着させるにはよいだろうと思います。
将来的には前線の営業担当者が事業プロジェクションを作る能力をブラッシュアップして、作ったプロジェクションを基にシミュレーションやストレステストを行い、リスクファクターを深掘りし、どこがポイントになるのかを自分でより深く理解しながら、交渉を進めるようになることを期待しています。案件の担当者自身がモチベートされ、そこに価値を見いださないとできないことなので、息の長い話なのですが、お仕着せのテンプレートを埋めさせるようなやり方よりも、このような地道なアプローチの方がよいのではないかと考えています。
研修を受けている営業担当者はリスクマネジメント部が出したレポートも十分に理解できていると思いますが、まだ受けていない人もたくさんいるので、広めていきたいですね。
リスクファクターの網羅は不可能~Crystal Ballを強制しない理由
ーCrystal Ballの最初の導入時は強制しなかったというお話しでしたが、全社展開ではいかがでしょうか
全社展開しても利用を強制しないスタンスに変わりはありません。
なぜなら、全社に普及させることを第一の目的にしてしまうと「このようなリスクファクターに対しては全部適用してください」「ひな形はこうです」ということになります。それをやってしまうとリスクファクターが限定されてしまい、リスクマネジメント部員に見えていないリスクが見えないままになって、案件の本質を見ていることにはなりません。
今後の期待
ーCrystal Ballの全社展開後に変わった点があれば教えてください
まず、経営陣に提出しているレポートの数が増えました。分析をする案件、しない案件をスクリーニングしていると話しましたが、分析データを付けなかった案件に「レポートはないんですか」とリクエストがつくなど、ここ2年程で上層部からCrystal Ballで分析をして欲しいとオーダーが来たりすることも多くなりました。確率論的な考え方をする人が増えてきたということかも知れません。
しかし、事業シミュレーションが普及するにつれて、ある種の危うさも感じています。テンプレートなどを配布して利用を強制しない理由として、「我々に見えていないリスクが見えないままになってしまう」というお話をしましたが、もっと言えば、すべてのリスクファクターを網羅することはそもそも不可能なのです。すべてのリスクファクターに適切な仮定が置ける訳ではないので、仮定を定義できていないリスク要因というものは必ず存在します。しかしそれはリスクを“定義できていない”だけで、リスクが“存在しない”訳ではありません。でき上がったレポートでは“定義できていない”リスクと“存在しない”リスクは見分けることができません。あたかもそこにリスクがないかのように評価されてしまうならば、それは逆に意思決定を歪める可能性があります。
統計データは多かれ少なかれそうですが、そこに数字のマジックが入ってミスリードしないように、利用する人間のリテラシーそのものを底上げしなければならないと考えていますので、構造計画研究所には今後とも期待しています。
構造計画研究所からは、同じ方向を向いて一緒にいいものをつくりましょうという気持ちが伝わってきます。山ほどの作業依頼と、修正も盛りだくさんというような状態の中で頑張っていただき、結果として即日完売が続く研修プログラムができ上がりました。その後のサポートにもよく対応していただいています。当社スタッフだけではあそこまでのものはできなかったでしょう。
※記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。
取材日:2013年10月
丸紅株式会社について
設立:1858年5月
本社所在地:東京都千代田区大手町
ホームページ:https://www.marubeni.com/jp/