カーシェアリングの事業性評価/設備投資の最適化

カーシェア用の自動車や、EVステーションなどに代表される車用設備を準備しても、借りられなければ無駄になります。一方で、準備しなければ機会損失を生むかもしれません。

さらに、カーシェアは借りられる台数や時間が不確実性を持ちます。こうした場合の事業性評価をどう進めればよいでしょうか。

  1. 事業性評価とは?
  2. カーシェアリングの事業性評価/設備投資の最適化

借りられないという機会損失

近年、どこかに出かける際にマイカーではなく、カーシェアを利用されるという方が増えているのではないでしょうか。私もよく利用しており、電車で出掛けた先でも気軽に借ることができるのが良い点だと思います。

しかし、最近予約済みの車が多く、必要な時に借りられないという事はないでしょうか?

近隣にはカーシェア用車両の置いてある駐車場が複数ありますが、週末はほぼ予約ができない状態が続いております。利用希望者がいるにもかかわらず、予約が埋まってしまうのは事業者側にとっては大きな痛手のはずです。かといって車両台数を増やそうにも、車両の維持管理コストもありますし、土地による制限もあるかもしれません。

そうした状況で、車両の適切な台数や、利用促進の施策をどのように検討していけばよいのでしょうか。また、最近ではEVもシェアリングできますし、充電ステーションも配置するという駐車場が増えています。これらの台数や設備規模もどのように検討すればよいでしょうか。

最適な配置台数や利用促進施策をどのように検討すべきか

例えば、既にカーシェア拠点を運営しているのであれば、それまでのシェアの台数や傾向を元にして推定することができます。特に、規模が同じであったり、商圏が近しい拠点があれば尚更です。しかし、施策を打つという点においてはどうでしょうか。

どの時間に車両が不足して機会損失が生まれるのかを把握したり、時間帯割引のクーポンを出して利用時間をコントロールするような施策を打つなど、事業運営においては収支向上のため施策検討を続けていかなければなりません。

そんなときには「予約や利用といった行動を考えられるモデル」を作る事にはそれなりに意義があると思います。実際にモデルを組んでみましょう。

Excelでカーシェアの利用状況を確率的に表現

カーシェア用の車両準備台数や、利用料金、車両維持コストなどを自由に設定できるようにしております。詳細は下部からダウンロードいただけるサンプルファイル(Excelシート)をご覧ください。こうした検討には正解はなく、目的に応じて実施すべきと考えます。本サンプルはあくまでも一例としてご確認いただけますと幸いです。

カーシェアの設備投資シミュレーション_モンテカルロ・シミュレーションの下準備1
カーシェアの設備投資シミュレーション_モンテカルロ・シミュレーションの下準備2

Excelシート上で検討する上で困ったことがあります。どの時間帯に何台の需要があるのか、シェア開始から何時間使われるのか、不確実な要素があるという点です。今回は、不確実な要素についてはExcelアドインのリスク分析ツール Crystal Ball を利用して、確率を設定しています。

以下では6:30からシェアが開始される確率をポアソン分布という確率分布をもって設定している例となります。

カーシェアの時間帯別、試用開始台数を確率分布で設定

これにより、実際に何台使われるのかをシミュレーションベースで算出することができます。例えば1,000試行を実施すると 1,000日=約3年分の想定が可能となります。つまり、3年間毎日試してみた結果、車両が何台必要だったか、どれだけ不足したのか、それに応じた収支などが算出されます。これは、多数の試行により結果がどうなるかを観察する、モンテカルロ・シミュレーションという手法になります。

数理最適化ツール OptQusetを使った検討結果

また、Crystal Ball の機能[OptQuest]を活用すると、何台準備しておけば最も収支が上がるのかという問題に切り込むことが可能です。

数理最適化の手順は簡単です。ここでは割愛しますが、ツールのOptQuset というボタンを選択して、実行ボタンを押します(サンプルファイルで実行される方は、試行回数を100回程度に設定することをお勧めいたします)。結果、以下のように最適化の結果が表示されます。今回は、何台シェアリングされるのか、何時間利用されるのかといった不確実性を見込んだうえで「22台」が最も収支が良くなると算出されました(左図)。また、その際の収支がばらつきをもった形で算出されます(右図)。

カーシェアリング事業の不確実性を考慮した設備投資台数の算定結果
カーシェアリング事業の不確実性を考慮した収益シミュレーション結果

結果をどのように活用すべきでしょうか。そのまま意思決定に使うこともあるかと思いますが、冒頭に述べた通り、施策検討の土台にされるケースが多いかと思います。こうした定量的な、ある程度は客観性の高い見積りを出すことにより、この案を中心として多様な意見を引き出すことが可能になります。また、少し条件を変えてみてシミュレーションをすることで、施策の効果を事前検討することが可能となります。設備投資時のシミュレーションとして、実際にご活用いただいております。

改めて何を検討できたのか

まとめると、まずは車両を何台準備すればよいのかを把握しました。さらに、利用料金や、車両維持コストの計算式を加えることで、Crystal Ballの最適化ツールであるOptQuestを使用して最適な車両台数を求めることも可能となりました。

施策として、朝割のようなものを導入すると稼働率を上げられるかもしれません。また、ピーク時間である15時近辺では追加料金を取ることで、売上増と利用の山崩しの両方が狙える可能性もあります。少しモデルをアレンジしていけば簡単に比較が可能です。

設備投資に潜むトレードオフを定量的に検討

さて、今回はカーシェアリングを題材としましたが、取り上げた課題の根本としては、設備投資が必要となるビジネス全般に潜むものかと思います。

今回取り上げた問題には、トレードオフの関係が潜んでいます。あらかじめ多くの車両を準備しておけば機会損失は減りますが、維持費は高くつきます。一方でニーズがあるにも関わらず車両の準備をしなければ、維持費はかかりませんが、機会損失が多くなります。Crystal Ball を利用すれば、複雑な関係を定量的に把握していくことが可能です。

投資しなければ売上は望めませんが、一方で過剰な投資は収支を圧迫します。例えば稼働率や為替などの不確実な要素を加味しつつ検討するのは難しく、こうしたリスク分析の考え方やツールが利用されます。

弊社でも最近、EV/再エネ/MaaS/蓄電池等に関連するお問い合わせが多くなっておりますが、いずれも設備投資に関連するケースが多いように思います。弊社ではこのような課題に対して、Crystal Ballに限らずエンジニアリングの観点からご支援をしております。ちょっとしたご相談でも、どうぞお気軽にお声がけください。

以下のフォームより、今回作成したシートをお配りしております。また、Crystal Ball は15日間の無料体験を活用すれば、シミュレーションを動かしてご自身のケースで収支を確認していただけます。さまざまな条件や、事業自体の想定を変えることも可能です。ぜひお試しください。

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